大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(う)268号 判決

被告人 土屋和典

〔抄 録〕

1 まず、所論は、被告人は、事件当時体内にイソプロパノール(イソプロピルアルコール)を保有していたところ、このような状態でアルコール検知を行った場合の数値は高く出るものであるから、本件についての検査結果呼気一リットルにつき〇・五ミリグラム以上との数値は正確ではなく被告人の呼気中アルコール濃度はこれよりもはるかに低かったものであると主張する。そこで、判断するに、原審において取り調べられた関係証拠によれば、被告人は、本件事件当日である昭和五八年一一月二五日被告人宅で夕食をすませ、同日午後八時ころから被告人経営の有限会社バイタル電気の工場内において、基板の半田付け作業(基板をイソプロパノールを含有するフラックス液とフラックス希釈液の混合液((混合比一対一))につけてこれを半田槽に入れ、その後所定の工程を経てさらに半田槽につける。この際イソプロパノールのガスが発生するため作業者はこれを吸いこむことになる。)を約二時間にわたって行った後、午後一〇時半ころから午後一一時ころまでの間に付近の飲食店「本膳」でビールを飲んだこと、その後普通乗用自動車を運転して同日午後一一時五分ころ原判示の道路に差しかかったところ、交通取締中の警察官が、多少蛇行しながら進行して来る被告人運転の車両を認め、停止させたところ、酒臭が強いので被告人にうがいをさせた上検知管で測定した結果、呼気一リットルにつき〇・五ミリグラム以上のアルコール濃度を検知したことが認められる。ところで、原審における鑑定人細井要一作成の昭和六〇年七月一九日付鑑定書及び原審証人細井要一の供述によれば、右細井において、被告人及び他二名の被験者に対し、(一)三〇分間にビール中びん一本半を飲ませた場合(二)前記半田付け作業を二時間行わせ、その後三〇分休憩させ、その後三〇分間にビール一本半を飲ませた場合(三)半田付け作業を二時間行わせた場合のそれぞれにつき、その一〇分後、それ以降は各三〇分後の右被告人ら三名の被験者の呼気中(検知管検査及びアルコールメーター検査)及び血液中のアルコール濃度を測定し、イソプロパノールのアルコール測定値への影響についての実験を行ったところ、右(一)、(二)の場合とも飲酒量は同じであるのに、検知管検査の結果は(一)の場合は三名とも呼気一リットル中〇・二五ミリグラム未満のアルコール濃度であったのに、(二)の場合には被告人及び被験者甲の二名が一〇分後検査において〇・二五ミリグラム以上の数値を示したこと(その後の各三〇分後検査ではいずれも〇・二五ミリグラム未満)、アルコールメーター検査の結果は一〇分後検査時に、被告人は(一)の場合には呼気一リットル中〇・一四ミリグラムのアルコール濃度であるのに(二)の場合には〇・二四ミリグラム、被験者甲は(一)の場合に〇・一四ミリグラム(二)の場合には〇・一九ミリグラム、被験者乙は(一)の場合には〇・一四ミリグラム(二)の場合には〇・二四ミリグラムの各数値を示したこと(その後の各三〇分後ごとの実験結果においても(一)の場合に比し(二)の場合に高い数値を示している。)血液検査の結果も(一)の場合に比し(二)の場合がやや高い数値を示す場合が多いことが認められ、イソプロパノールガスを吸入後に飲酒した場合にはこれを吸入しない場合に比しアルコール濃度は高い数値を示しているのである。しかしながら(三)の実験結果すなわち半田付け作業後のアルコール検査によれば検知管メーター、血液の各検査のいずれにおいてもアルコールは検出されないばかりか、(二)、(三)の各実験の場合とも被験者の作業した室内の空気一リットル中には五・〇ミリグラム、作業中の被験者の顔付近には一二・五ミリグラムのイソプロパノールが検出されているのに、三名の被験者の呼気中及び血液中からはイソプロパノールが全く検出されていないのであって、以上の実験結果によれば、イソプロパノールガスの吸入は身体中のアルコール保有度の検査結果にはなんらの影響をも与えないことが明らかであり、作業後の飲酒者に対するアルコール検査測定値は作業をしていない飲酒者に比しアルコール濃度が高い数値を示すとしても右測定値は飲酒によって体内に保有されるに至ったアルコールのみに起因していることが疑いなく証明されたところである(ところでイソプロパノールガス吸入後の飲酒においてはアルコール濃度の測定値が高くなるのは細井の検察官に対する供述調書及び原審証言によれば、体内のイソプロパノールが代謝される際、アルコール代謝系と同じ酵素が消費されて、アルコールの分解に働く酵素が減少した結果、アルコール代謝が遅れるものと考えられるとのことである。)。

してみれば、本件当時被告人に対して行われたアルコール検知管による前記測定値は、検知管自体が持っている測定誤差(むしろ、アルコール濃度が、実際よりやや少な目に表示される)はともかくとして、被告人の飲酒による体内のアルコール保有量を正確に表示したものというべきであって、これがアルコール濃度の測定値としては不正確であるとの所論は採用することができない。

(高木 花尻 安藤)

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